しぴ風呂

いい湯だな

「エリート」への呪詛あるいは「中卒者」への激励

《しぴえる(@sh1p1_ele)のお風呂が沸きました》

昨日の風呂では「東大生」に向けられる呪いについて語った。

同時に思い出すのが、高校を中退して「中卒者」となった僕に対する世間の目線だ。

僕という人間に対する評価が、肩書きだけで180度変わったのはなかなか貴重な経験だったので、今度はその話をしようと思う。

 

◆エリートへの呪詛の全体像

 

詳しいことは先述した記事にも書いたのだが、ここであらためて、エリートへの呪詛の全体像を振り返る。

"結局は、能力が高そうな異端者をリスク要因と見做し、コミュニティから排除したいだけではないかと。早い話が、ルサンチマンである。"

この一言に尽きるのだ。

世間には一定数、エリートとされる属性に対して畏怖のような念を抱く人がおり、無意識的に「普通の人」のコミュニティから排除しようとしているらしい。

それが、東大生に対する、神格化と崇拝の皮を被った呪詛の正体だと僕は思っている。

 

◆優等生としての僕

 

本棚を処分された件もあり、精神的に不安定になった僕は高一で学校を辞めてしまったのだが、それまでは安定的に「優等生」ポジションにいたと記憶している。

小学生の頃から一貫して「お勉強ができる子」という扱いであり、周りの勉強熱心な同級生やその親からはチヤホヤされていた。

一方、勉強に重きを置かない人たちからは「例の言葉」をかけられることもあった。

「お勉強よりも大切なものがある」「お勉強ができてもXができなきゃ意味がない」という呪いである。

僕はその度に嫌な思いをしていた。

ASDADHD傾向のある僕は、授業中じっとしていることもできないし、コミュニケーションも苦手だった。

先生にしょっちゅう怒られていたし、僕自身、自分のことを「ダメな子」だと自覚もしていた。

しかしそれは、勉強を一生懸命やりすぎて、他のものを取りこぼしたからではない。

もともと僕は、他の人が当たり前にできる多くのことが苦手な人間で、たまたま勉強以外のことに対して適性がなかったのである。

それなのに「お前は勉強ばかりやっているから人間的にダメなのだろう」とでも言うかのような口振りは、唯一得意で好きであったはずの学びを否定されているようで、とても辛かった。

 

◆中卒者としての僕

 

さて、早々に高校を辞めた僕の最終学歴は中卒となった。

しかし、当時の僕は大学進学を諦めてはいなかった。

そのため、アルバイト先でも、休憩中は控え室で参考書と格闘していた。

ここで僕は奇妙な現象に気がつく。

「しぴえるさん、今日も勉強してるんだ」「大変だねえ」「頑張って」

僕が勉強する様子を見て、非難どころか、激励する人ばかりなのである。

当初は、勉強する姿勢を否定されないなんて、恵まれた場所に来たもんだと思った。

だが、程なくして、そうではないことが判明する。

「名大くらい行っちゃいなさいよ(地元では名大がまず第一関門である)」

「いっそ東大でもいいんじゃないか」

「そうそう。中卒から東大行って、進学校の人たちを見返しなよ」

つまり、どうやら僕は「エリートどもに一矢報いる存在」として期待されていただけなのだ。

確かに僕にとって、名大・東大というのは悪くない選択肢だった。

しかし、彼らの目に映るこれらの大学は、理想的な環境の整った研究施設としてのそれではなく、エリートの集団が通う学校でしかないらしい。

「中卒者」の僕に対する激励は「エリート」の彼らへの呪詛とまるっきり同質のものだったのだ。

だから、僕は曖昧に笑って「無茶言わないでくださいよ〜」と答えた。

 

◆僕が「エリート」になったら何者と呼ばれるのか

 

結局、精神疾患を抱えながら受験に耐えられるほどの強さは僕にはなく、センター試験当日にパニックと過呼吸に陥って、人生を軌道修正できないまま今に至る。

そんな過去はもう受け容れているので構わないのだが、ときどき考えることがある。

「あのまま僕が『エリート』になっていたら、何者と呼ばれたのだろう」

中卒から苦労して人生を大逆転させたヒーローとして扱われるのか。

それとも、進学した途端に「何大生」の一人でしかなくなるのか。

いずれにせよ、僕はいつだって僕でしかないのに、過去や肩書きによってこうまで評価が変わるのは、何とも可笑しなものである。

しかしそれはどうしようもない現実だし、僕自身、きっと無意識のうちに他人を肩書きで判断しているのだろう。

自分はたまたま勉強に取り組んできたから、学歴という肩書きに敏感なだけだ。

それを学習した卑怯な僕は、あまり信頼できない人から勉強に言及されると、非難から逃れるために学歴を利用している。

「物知りだね(警戒心を含んだ視線)」

「いや〜勉強できなくなって高校中退しちゃいましたけどね(嘘ではない)」

大層、都合の良いものだ。